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東京高等裁判所 昭和60年(行コ)62号 判決

控訴人

株式会社明輝製作所

右代表者代表取締役

黒柳勝太郎

右訴訟代理人弁護士

成富安信

青木俊文

星運吉

被控訴人

中央労働委員会

右代表者会長

石川吉右衞門

右指定代理人

萩澤清彦

高田正昭

中村和夫

鈴木好平

被控訴人補助参加人

総評全国一般労働組合神奈川地方本部

右代表者執行委員長

三瀬勝司

右訴訟代理人弁護士

野村正勝

三浦守正

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用(参加に係る費用を含む。)は差戻の前後を通じて控訴人の負担とする。

事実

第一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が中労委昭和五二年(不再)第九号事件について同年一〇月一九日付けをもってした命令(ただし、同命令中、神労委昭和五一年(不)第二八号不当労働行為申立事件の主文1及び2項を維持した部分を除く。この部分については訴えは取り下げられた。)を取り消す。訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

第二  当事者双方の主張(補助参加人の主張を含む。)は、次のとおり付加するほかは原判決の事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

一  控訴人

1  控訴人は、単に団体交渉の相手を明確にするよう釈明を求め続けていたにすぎず、団体交渉を拒否したものではない。

仮に、交渉の主体が単一組合の補助参加人(地本)であり、控訴人においてそれが推測できたとしても、団交申入書には両分会の記載があり、両分会は、補助参加人の下部組織であっても組合の実体があり、団体交渉の権限がある以上、なお交渉相手は疑問であった。

2  仮に、控訴人が団体交渉を拒否したものであるとしても、団体交渉を拒否した相手は単一の組合たる地本のみということになるから、その謝罪の相手も地本のみで足り、その下部組織たる大和分会や横浜分会に対して謝罪する必要はなく、これらに対する謝罪を命じた本件救済命令部分は取り消されるべきである。

3  控訴人は、昭和六〇年一一月二一日、控訴人の横浜工場を閉鎖したから、謝罪文を右横浜工場の正面入口の見やすい場所に掲示を命ずる本件救済命令部分は、履行不能となったので、取り消されるべきである。

4  本件謝罪文の謝罪の相手の一人である補助参加人組合横浜分会なるものは昭和五三年九月三〇日以降、組合員が零となって存在しないから、同分会宛の謝罪文掲示の義務は消滅した。

二  被控訴人及び同補助参加人

1  本件救済命令中、控訴人の団体交渉拒否という不当労働行為が存在する事実は確定し、謝罪文の掲示を命ずる部分についてのみ審理されているものである。

2  控訴人の横浜工場が控訴人主張のとおり閉鎖されたことは認めるが、工場施設と人的要素の事業所としての実態がそのまま横浜から厚木市金田八〇〇番地へ移転したにすぎず、厚木工場として従前と全く同様に営業している。

3  補助参加人組合の一分会である横浜分会なるものは組合員が零になって現在存在しないことも認めるが、右分会が存在していた当時の不当労働行為により受けた救済利益は存続し、右分会がその後存在しなくなったとしても、同分会宛の謝罪文掲示の救済利益が消滅するものではない。

第三  証拠の関係は、原審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  本件命令中、初審命令主文3項を維持した部分について検討するに、控訴人の行為が本件団体交渉を拒否したもので(釈明要求中との主張は採用できない。)不当労働行為に該当することは原判決の理由説示のとおりであるから、これをここに引用する(なお、本件命令中、初審命令主文1項及び2項を維持した部分の取消しを求める訴えの取り下げにより該命令部分は確定しているが、被控訴人側主張のように事実関係まで確定するものではない。)

しかして、原判決認定の事実関係のもとにおいて、本件団体交渉の議題は各職場組合員の要求であったのであるから、初審命令主文に掲げる謝罪文中、団体交渉の直接の相手でない補助参加人組合傘下の明輝製作所横浜分会及び同大和分会も形式上名宛人として表示されていることは謝罪の趣旨を不当にするわけではなく、その真の相手は申立人たる補助参加人であることは勿論であるから、控訴人に対し右のような謝罪文の掲示を命じたことは必ずしも不当ではなく、初審命令を維持した本件命令に控訴人主張の違法はない。

なお、控訴人は、本件救済命令後その救済利益が一部消滅した旨主張するところ、謝罪文の掲示場所である控訴人横浜工場が閉鎖されて現在存在しないことは当事者間に争いはないが、弁論の全趣旨によれば、その組織は控訴人厚木工場として同一性を保って存在していることが認められるから、命令の趣旨に沿った掲示は可能であり、また、謝罪文の名宛人として表示された前記横浜分会は組合員が零で現在存在していないことも当事者間に争いはないが、謝罪の相手である補助参加人組合は存在しており、しかも救済命令の実務上しばしば採用される謝罪文の掲示は不当労働行為の確認と組合活動に対する同種行為の反復の防止という労働法特有の目的を有するものであることに照らし、控訴人の当審における各主張事実が本件救済を受けることを正当とする利益ないし必要性を消滅せしめる事情変更と認めることはできない。

二  してみれば、右と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、九六条後段、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小堀勇 裁判官 時岡泰 裁判官 山﨑健二)

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